my hometown 敷地編(1)
はじめての家づくり2021.02.25(Thu)
「建築地を選ぶのに相談させてほしい」というメールが届いた。
いくつか候補地があって意見を聞かせてほしいという内容だった。
購入してからどうしよう・・・思うような家が建たない・・・
というご相談はあるけれど、少し珍しいなと思った。
施主宅に訪問し、挨拶を簡単にすませると
「ここは借家で、主人の仕事の関係で京都に来たんです。
将来は実家に帰ることも考えていたんですけど・・・
子供たちに実家というものを残してあげたくなって、土地を探し始めたんです」
奥様は家づくりのきっかけを手短に話してくれた。
ご住まいの借家は築7~8年ぐらいのハウスメーカーの家で3LDKのよくある間取りだった。
南向きだけど庇が長く、昼間でも暗いなぁと感じた。
基本的に打ち合わせは施主宅で行うことにしている。
ご家族の暮らしぶりを肌で感じ、湧いてくる素朴な疑問のおかげで
言葉にならない本当の望みを探し当てることが出来るから。
そしてご家族のことをお聞きしながら物件資料を拝見し、実際に見に行くことになった。
ご夫婦と僕とお子様の計4人が自転車で一列になって数か所巡った。
どれも南向きでそのうちの一つはすごく奥行の長い敷地だった。
その日見た中では一番興味深い土地だった。
一通り見終わって再びご自宅に戻り、
ホットコーヒーと奥様お手製のオレンジピールにチョコレートを
コーテイングしたオランジェットを頂いていると、あの細長い土地の話になった。
「こんな細長い敷地だったら、どんな感じの家になるんですか」ご主人に聞かれ
「いろいろ工夫は出来ますよ。庭を点在させたり、棟をわけてもいいですし、
道路側に建物を寄せると山を望むことも出来ます」
現地でお話した内容を資料と照らし合わせてご説明するが、何かが心に引っ掛かっていた。
ご夫婦はなるほどといった感じだった。
帰り際「もし気になるお敷地があれば検討しますので、お気軽におっしゃってください。」
とお伝えしてその日はお開きになった。
施主宅を出ると日が暮れていた。
僕が住んでいるあたりよりも星がたくさん見えて、
山のロープウエーの灯がぽつぽつと点いていた。
駅までの暗い川沿いの夜道を歩きながら、あの心のわだかまりはなんだろうと心の内を探る。
僕はどうしてあの細長い敷地を勧めなかったのだろう、何を躊躇したのだろうと。
僕にとっては興味深い形の敷地だったのに・・・・ ・・・ ・・・・ ・・・
改札でピッとカードを当てた時、ようやくわかった。
初めてお会いしたばかりで、ご家族の暮らしぶりや人柄そういったものが
まだ僕の肌身に沁みていないから、あの土地がふさわしいかどうか判断できなかったのだ。
帰ってから、お土産に頂いた奥様お手製のオランジェットを一つほおばり、想像する。
手間のかかったこんなお菓子がテーブルに出てくるご家族にふさわしい家を。
佐野泰彦建築研究所(@yasuhiko_sano) • Instagram写真と動画