故きを温ねて(後編)

京町家リノベーション

2018.09.18(Tue)

 

(前回の続きです)

どういう家にしたいか、どういう暮らしを送りたいかはもちろん大事ですが、

京町家をリノベーションする際は、

もともとどういう経緯で建てられたか、

原型はどうあったかを大切にしています。

それは現代生活のみに全てを合わせて造り替え

本来その町家が持つ良さを殺さないためであります。

 

「もともとは、おそらくこうだったんじゃないですか」

という僕の問いかけに答えられる方といえば、お母様です。

お母さまにも打ち合わせに参加頂き、

お若い二人に昔話の読み聞かせをするように当時のことや

現在に至るまでの改修履歴を

時には、亡くなられたお父様や義祖父の思い出をお話し頂くと

「そうやったん。だからこうなっているんか!」

今まで以上にご自宅への理解が深まり、

「ここはこのまま残しておこう。でもここは使い勝手も悪いから・・・」

ご夫婦で残す部分の判断ができるようになられました。

 

ご家族それぞれの方が持つ不満はいろいろありましたが、

三人の共通意見としてあったのは、

日中でも家の中が電気をつけないといけないぐらい暗いことでした。

また2階の真ん中の部屋には窓もありません。

しかし、空間の構成や格子の付いた窓は、

そのまま活かすことに決まりましたので、入ってくる光の量は変わりません。

 

そこで、入ってきた光を遮るような間仕切り壁や建具を取り除き、

より開放的な空間をとりました。

家中を風が通り抜け、それぞれの方の気配が家の隅々に届くように。

そして、2階の窓のない部屋と階段にまたがるように

大きな天窓を1つ設けました。

部屋を均一に照らすというよりは、

生きる力を後押しするような力強い光を求めて。

 

打ち合わせを定期的に行い、

お知り合いになって1年半という時を経て竣工しました。

 

竣工して1か月が過ぎた頃に立ち寄ると

ダイニングにレトロなペンダントライトが釣られていました。

「かわいいですね。奥様が選ばれたのですか」

「これは主人なんです。

この家にはこういうのが似合うって勝手に買って来たんです・・」

「そういえば、最初の頃のご主人って、

嫁にすべて任せていますからって言っていましたよね()

「そうですよね!ほんとうそう、そう言ってた。

その割に、けっこう自分の好み押してきていましたよね!()

でも、・・・・・これで良かったと思います。

私もこの家、気に入っているし。・・・

大事に引き継いでいこうって思っていますから!」

奥様は、今までの事を振り返りながら

そしてこれからの近い未来を想像しながらお話しされているようでした。

 

帰り際、

「いい家になったから、この際、庭もきれいにしようと思って。

知り合いの庭師さんと相談しようと思っているし、出来上がったらまた呼ぶわ」

とお母様にお声掛け頂きました。

 

 

 

 

 

#佐野泰彦建築研究所