あかるいほうへ (前編)

セカンドライフ

2021.07.01(Thu)

 

「80才にもなって、まさか、また家をなぶるとは思わんかったなぁ。

体調を崩して・・・階段も急やし、夜中下りるのも怖いしね・・・

そろそろ1階で寝ようかと思って。

本当はもっと早く連絡したかったけど、緊急事態宣言やったしなぁ」

 

久しぶりにお会いしたお施主様は、相談するに至った経過を順序たててお話してくれた。

 

お施主様と初めてお仕事をさせて頂いたのは7年前で、浴室・洗面室を改装した。

すると同じ年の秋には、「こんなに暮らしぶりがかわるなら」といって

その隣りの居間を改装した。

そして今回で3回目のご依頼になる。

 

施主宅は、昭和から平成に変わる頃に建てられたお家で

敷地は南側道路に面してあり、間口4Mほどで奥に長い

いわゆる「ウナギの寝床」と言われる京都ならではの特徴をもっていた。

玄関は南東角で、玄関から廊下が北に向かって一直線に延びていて

廊下に沿って、手前より、洋室、便所、階段を並べる。

廊下の突き当りはダイニングキッチンでその奥に居間がある。

居間の北東角に洗面脱衣室と浴室を突き出すように配置されていて

北西角は坪庭になっていて、居間の北面にある腰窓から少し緑が見え

夏には時折涼しい風を居間に運んでくれる。

 

お施主様が寝室にとお考えの部屋は、

玄関横の洋室で4畳半ほどの広さがあり、北西角に押入もあった。

南向きだから日中も明るい。

 

ある時期からは、お母様がお休みになるお部屋として使われ

看取られた後は、ご自身の書斎として使われるようになった。

趣味の切り絵の材料や旅先でのお土産物、

大好きなタイガースのグッズが飾られている。

お施主様自身の日常やこれまでの人生の1ページを肌で感じ取れるような部屋で

居心地はよかった。

 

この部屋は、もともと応接室としてつくられたのだろう。

玄関横に応接室と呼ばれる客間を設けるのは、当時の流行の一つだったと思う。

洋室とダイニングキッチンとの間に挟まれた便所や階段で

応接室と家族の使う範囲は明確に分けられていた。

 

ただ1軒の家がなんとなく分断されているように僕は感じた。

それは建てられたときの意図と実際の用途が合致していないからかもしれない。

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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