あかるいほうへ (中編)

セカンドライフ

2021.07.08(Thu)

(前回のつづきです)

 

当初は洋室のみを考える予定でしたが

「ダイニングキッチンもこぎれいにしたい」

とおっしゃられたことをきっかけに

かねてより感じていた『分断されている感じ』を払拭したくなり

洋室をダイニングキッチンや居間と繋げることを考えた。

 

それは、

一人暮らしのお施主様にとって

家の隅々までの気配を感じ取れることは安心感につながるし、

洋室の南窓から居間の北窓まで風の道をつくると

季節を告げる風が家中を通り抜け

より快適に暮らすことも出来るというメリットもあった。

 

分断感の原因でもある廊下沿いの便所と階段。

廊下と反対側部分の便所は、洋室側からの収納になっていて

階段下は、キッチンのコンロ、換気扇として利用されていた。

キッチンはセクショナルキッチンで、

シンクやコンロ部分はバラバラにして利用できるタイプだった。

キッチンの長さは2.4Mあったが、日頃の調理状況をお聞きし

必要のない60センチ幅の収納部分を処分して

コンロを階段下からダイニングキッチン側へ移動した。

 

それにより生まれた階段下のスペースと

洋室側にある押入を1つに合わせると

1畳半ほどのスペースが生まれた。

 

そこに、片側は枕棚とハンガーパイプを設置し、

反対側はダイニングキッチンから洋室をつなぐ通路にした。

いわゆる「ウォ-クスルー収納」と呼ばれるものだ。

 

玄関から廊下、廊下から洋室、便所、階段、ダイニングキッチンへの従来の動線に加えて

ダイニングキッチン→ウォークスルー収納→洋室の新たな動線が生まれ

2つ合わせると円を描く回遊性のある動線となり、1階全体の自由性が増した。

 

また、ダイニングキッチンとウォ-クスルー収納との間仕切りの引き戸を開けると

日中ご主人が坐っている居間から

洋室の南窓までの7Mほどの距離を感じることができる。

この空間の奥行は、細長い家ならではの特徴で

コロナ禍での自粛生活の閉塞感を打ち破り

ずーっと家にいても苦にならない手助けになると期待した。

 

これからの人生が、よりあかるいほうへ進みますようにと願いも込めて。

 

 

そして、治療が始まる前日に何とか仕上がった。

 

つづく

 

 

 

 

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