無口なお父さん フラワーアレンジメントは語る (前編)

古民家リノベーション

2023.03.10(Fri)

 

 

引き渡しの日に現場に伺うと、

和室の地袋棚の上に生け花が飾られていた。

 

きれいだなぁと眺めていると

「このたびは、大変お世話になりましたねえ、ありがとう。

それは、庭に咲いていた野花を摘んで生けてみたんですよ」

お施主様のお父様がやさしい口調で教えてくれた。

 

古くから受け継がれた「ある画家の別荘」を

息子さんの住まいとしてリノベーションした。

 

工事の内容は、息子さんとお話していたが、

お父様とお話する機会も結構あり、

なんとなくその人らしさ、

価値観を掴んだつもりでいたけれど、

「こんな感性をお持ちだったとは」と少し驚いた。

 

それから1年ほど経ったある日、

過去の竣工写真の整理をしていて、

あの時の生け花の写真を見つけた。

 

ご相談頂いた当初、ご両親は、

「費用は援助しますが、

工事内容は息子のいいようにしてやってください。」と

建物への関心が薄いのかと思いきや、

その後、由緒や思い出、気に入っている点をお聞きすると、

建物への深い愛着を感じた。

 

一方、建築当初のままで、実際に住まわれている息子さんからは、

たくさんの不満をお聞きした。

息子さんは劇的にガラッと変わることを強く期待していた。

ご両親と息子さんの思い描く未来図は、かなり開きがあった。

 

ご家族は同じ敷地の中で、

ご両親は母屋に、息子さんは離れに住まわれていた。

 

離れに行くには母屋の前を通るので、

息子さんとの打ち合わせ前には

必ずご両親にお声がけをするようにした。

その際お父様は、進捗具合等お尋ねになられることもあった。

週一回打ち合わせを行いながら、なかなか計画がまとまらないのを

みかねたのだろう。

「大きいお金がかかることですから、

皆さん慎重に検討されますよ。順調な方ですよ。」とお答えした。

 

おそらく、息子さんから内容について、

あまり教えてもらえないのだろう。
 

また、立ち話だけで終わるときもあれば、

補助金や耐震、断熱性等

お父さんなりに調べてこられた点について、

少し話し込むときもあった。

息子さんに直接言いづらそうな内容は、

僕の方から息子さんへ提案したこともあった。

 

ただそれは代弁というよりは、

これからの建物の在り方にふさわしいと僕が思った点にかぎった。

僕としては、どちらかに肩入れすることなく、

これからの建物の在り方を模索していた。(つづく)

 

 

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