新しくしすぎない実家考

古民家リノベーション

2024.02.08(Thu)

 

実家というものは、新しくしすぎると
『ここにしかない場所』が『どこにでもありそうな場所』にかわって
帰ってきたぁ!という実家感が薄くなってしまう。
その空気感を守るために
昭和40年からの趣ある和室と玄関廻り、
そしてお孫さんが背比べをした柱を活かしてリノベしました。

 

 

「大学生の孫が来た時に、
頭を打ちそうになるから、この欄間をつぶして、
天井までの高い建具にしてください」とお施主様に言われました。
天井までの高さのある流行の建具であれば、
背の高いお孫さんはスッと出入りでき、
リビングと和室を1室のように繋がっている感を味わえる
とお考えのようでした。

 

相談頂いた建物は、
昭和40年代に建てられた木造建築で、
数回にわたり改装や増築が施されていましたが、
和室と玄関廻りは、当初のままでした。

お施主様の要望通りにすると、
廊下から和室への出入り口や押入の襖の高さや
床の間の落掛けと不釣り合いになり、
均衡を保てていた歴史性を感じさせる空気感が
損なわれてしまいます。
結果的に、帰省した時の「帰ってきたなぁ」という実家感は薄くなり、
建物の持つ魅力も大きく減少してしまうと思いました。

 

また、欄間のある和室は、
日中ベッドの上で過ごすお母様の寝室になる予定です。
天井までの建具にすると、
閉じた時は、和室とリビングを分断してしまいます。
しかし、欄間があると、襖を締め切り、視線を遮っても、
光や風、家族の気配や話し声を届けてくれて、
体調のすぐれないお母様の不安や孤独感を
安心感へ変えてくれると考えました。

 

今回の場合、欄間をなくすことは、一見些細なことで実現可能ですが、
それはご家族とお母様との関係に良くない変化をもたらし、
建物と共に培われてきた実家感や歴史性も失われていまいます。

 

リノベーションの時、
全てを新しくすることに夢中になりがちですか、
歴史のある実家というものには、
『新しくしすぎない』という視点で
ここにしかない実家の空気感を守ることも大切です。

 

佐野泰彦建築研究所
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