無口なお父さん フラワーアレンジメントは語る (後編)

古民家リノベーション

2023.03.24(Fri)

(前回のつづきです)

△工事中です

△竣工時:地袋の上に生け花を飾られていました。

 

 

お引渡しの日、

息子さんへの僕の印象は、

当初と比べると大きく変わった。

顔つきがやさしくなった。

もともとのやさしい心根が、

表情に現れたように見えた。

 

ご両親も嬉しそうで、

まるでご自身が住むぐらいの熱量で、

建物や器具説明を一緒に聞いていた。

「母屋を息子さんに渡して、

ご夫婦で、こちらでいかがですか。

ちょうどいいですよ。」

大工さんの冗談に息子さんは、

「またまたぁ、かんべんしてくださいよ~」

と笑みを浮かべて話していた。

空間は、和やかな雰囲気に包まれていた。

 

ご家族の距離感は、

以前よりも近づいた気がした。

家づくりを通じて話す機会が増え、

お互いの考えを素直に伝えられたのだろう。

 

お開きになる時、

器具説明を行うメーカーの人や

職人さん、大工さん、僕ら一人一人に

「お世話になりました。」

とご両親は声を掛け、菓子折りを手渡された。

 

僕は、もう一度、あの生け花を見て、家路についた。

 

 

竣工時、お施主様の顔つきが変わったり、

眠っていた才能が目ざめたような

お施主様の新たな一面との対面は

僕の喜びのひとつでもある。

 

家づくりは、

価値観や心持ち、

家族の関係を整える場でもあるから。

 

建物が、本来の輝きを取り戻した時、

お父さんは、庭で野花を選び、生けた。

 

生け花に込めた真意は、わからない。

息子さんへのはなむけかもしれないし、

新しい空間に刺激を受けて、

生けたくなっただけかもしれない。

ただ、以前のお父さんのままだったら、

息子さんに遠慮して、飾ることはなかっただろう。

 

空間は新しくなり、

息子さんは変わった。

お父さんも変わった。

 

準備は整い、新しい暮らしがはじまった。

 

 

 

□○△ 

佐野泰彦建築研究所

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